愛すべき1996年の糞ったれ映画「トレインスポッティング」

(2014年に書いた雑文をそのまま再掲)

1996年に公開されたイギリス映画。制作は1994年から1995年のブリットポップ全盛期だった。監督はダニー・ボイル。原作はアーヴィン・ウェルシュのデビュー作である小説だ。あらすじはスコットランドでヘロイン中毒になっている若者たちの群像劇って感じ。それ以上でもそれ以下でもない。

トレインスポッティング(Trainspotting)とはトレイン+スポッティングで、列車+型式やナンバーを当てる人という意味がある。単純にいえば、電車オタク。それをアーヴィン・ウェルシュはヘロイン中毒者のメタファー(暗喩)としてつかっていた。このあたりは諸説があり、作者の真意はわからない。

映画につかわれた豪華な曲たち

映画に使用された曲や、サントラ盤の収録曲は豪華という言葉に尽きる。

ブリットポップの代表格である、ブラー、パルプに、ブロンディのカバーを提供したスリーパー、エラスティカ。主人公であるレントンが好きだという設定になっているイギー・ポップ。古参でいくと他にはブライアン・イーノにプライマル・スクリーム、ニュー・オーダー、ルー・リード。テクノ系ではデビュー・アルバムでジョン・ライドンを参加させて話題になったレフトフィールドに、この映画で一気にブレイクしたアンダーワールド。

などなど。

これほどの曲数を詰めこんで、曲が持つイメージにも負けることなく、秀逸な作品として成立させているのは奇跡に近い。これまでの映画史上、数えるほどしかない。そう、思っている。

主人公マーク・レントンを演じたユアン・マクレガー

「トレインスポッティング」で主人公マーク・レントンを演じたユアン・マクレガーはダニー・ボイル監督によって見出された、といっても過言ではない。ダニー・ボイル監督はデビュー作「シャロウ・グレイブ」から3作目「普通じゃない」までユアン・マクレガーを起用している。「トレインスポッティング」はその2作目にあたる。

ユアン・マクレガーは「トレインスポッティング」と同時期に「ピーター・グリーナウェイの枕草子」にも出演している。邦題の通り、清少納言の作品が元で、ピーター・グリーナウェイらしい映像美に満ちた映画は日本人からすると、とても興味深い解釈だった。「SAYURI」の数百倍は観る価値があると思う。

映画館で「トレインスポッティング」を観る前にアーヴィン・ウェルシュの原作を読んでいたので、おおよその内容は知っていた。たぶん、アメリカン・ニューシネマのイギリス版なのかな……と思っていたら、冒頭から一気に裏切られた。それは良い意味で。原作の空気を壊すことなく、見事なばかりに消化された映像化はお見事に尽きる。

ユアン・マクレガーは「トレインスポッティング」以降、映画「ベルベット・ゴールドマイン」でイギー・ポップをモデルにした役を演じた。おそらくこのままB級映画の俳優で定着するんだろうな……と思っていた。しかし、その翌年「スター・ウォーズ」新3部作のオビ=ワン・ケノービ役に抜擢。一気にスターの階段に足をかけた。

「トレインスポッティング」が残したゴミ屑

「トレインスポッティング」はその後の様々なカルチャーに影響を与えるインパクトがあった。発表された時期が絶妙だった。1996年を外していたら、おそらく、強烈なインパクトは残さなかっただろう。どのようなジャンルの創作物も時代の空気に合ったタイミングは大切だと思う。もちろん、時が過ぎ去ってからでないと誰もジャストのタイミングなんてわからないだろうけども。

例を挙げる。

マイ・ケミカル・ロマンスは、そのバンド名をアーヴィン・ウェルシュの「エクスタシー」の副題から付けられた。確か、これも映画化されたはずだ。日本未公開だったかもしれない。

サブタイトルが音楽好きな人をニヤリとさせたアニメ「交響詩篇エウレカセブン」の主人公はレントン・サーストン。レントンは「トレインスポッティング」の主人公名。サーストンは、もちろんソニック・ユースのサーストン・ムーアからだろう。しかし凄い組み合わせだな、これ。

その他のアーティストにも好きな映画に「トレインスポッティング」挙げる人が多い。映画関係者以外のアーティストが目立つ。それが、この映画の特徴かもしれない。

「トレインスポッティング」の続編

2012年ロンドンオリンピック開会式は、総合演出がダニー・ボイルで、音楽監督がアンダーワールドだった。完全に「トレインスポッティング」コンビ。内容は意外にも正統派で、逆に驚いた。ザ・クラッシュの「ロンドン・コーリング」やセックスピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」が序章に使わたりしたのがそれっぽいところかな。まあ、エリザベス2世女王をパラシュートで降下させただけでも日本では考えられない話だけどね。

ダニー・ボイルは「トレインスポッティング」続編の映画化を2016年公開に考えているらしい。「トレインスポッティング」続編にあたるアーヴィン・ウェルシュの「ポルノ」は9年後の設定なので、そのままのキャスティングには無理がありすぎる。やるならやるでいいけれど、よくあるパート2の駄作にはして欲しくないものだ。

それよりも、続編の映画化によって、絶版や文庫化されていないアーヴィン・ウェルシュの作品が復刊することを願っている。2014年現在で、流通しているのは「シークレット・オブ・ベッドルーム 」の単行本ぐらいなのかな。何といっても、あのオレンジにモノクロの印象的なポスターは未だに売れているのに。

不思議な話だよ。秀作の絶版はとても残念でならない。

これを書いたのは続編の「T2 トレインスポッティング」が公開される前だった。