生まれて初めて映画音楽に痺れた「戦場のメリークリスマス」

「戦場のメリークリスマス」を始めて観たのは高校生のときだった。いま眺めてもすごいキャストだ。デビッド・ボウィ、坂本龍一、ビートたけし。目当てはデビッド・ボウィがメインだったのだけど、本編が終わってスタッフロールが流れている間、もう頭からあのメロディが離れなくて、客電がついてからも寒気のようなぞくぞくとした鳥肌がたっていた。

この映画のことを説明するのはひどく難しい。言葉で説明してしまうと、相手に何かものすごく大切なことが伝わっていないような気がして、気になりすぎて、話すのがイヤになってくる。話していくうちに言葉が陳腐に思えてくる。

普通なら、あそこの科白がかっこよくて、とか、オープニングの映像が素晴らしくて、とか、あの女優さんがものすごく魅力的で、とか、何らかの形容詞やら副詞やらで説明できるのだけれど、これはダメだ。うまくいかない。相手の顔を覗いながら、ひとりでジレンマの穴に落ちてしまう。

自分が好きな映画を語る際に、よくあることなのかもしれない。映画は総合芸術だ。出演する俳優のキャストから、大道具小道具にいたる映像、照明、演出、音楽、編集……。すべてが有機的に混在してひとつのスクリーンに映し出されている。どれひとつ欠けても、自分の好きが別のものになってしまうような気がするんだよね。

そう考えると監督という立場は偉大だ。当たり前だけど、強烈な個性がぶつかりあった結果でおもしろいものができあがることもある。ただ、映画というものが最終的に監督のものであるという理想からいえば、優秀な監督がその美意識のもとにすべてを組み立てたときの味わいはたまらなく芳醇な匂いを醸し出すはずだ。

今、この映画を始めて観た人に感想を尋ねてみたいと思っている。あの頃に映画を観た自分とでは感じ方が違うはずだ。

あの頃、そう、「戦場のメリークリスマス」が公開された1983年の話だ。大島渚はATG「愛のコリーダ」(1976年)と「愛の亡霊」(1978年)を発表して以降、なにかと世間を騒がしていた頃。ボウィはベルリン三部作から「Scary Monsters」を経て「Let’s Dance」を出していた頃。ビートたけしはまだ北野武ではなく「オレたちひょうきん族」でタケちゃんマンをやってた頃。坂本龍一は世界の……なんて冠はなく、前年に清志郎と「い・け・な・いルージュマジック」で化粧して、その後YMO散開の頃。この雰囲気が味わえるのはたぶん1983年だったからなんだと思う。今、これを観ても(今の世代がね)、このニュアンスは伝わりにくい。

だからこそ、聞いてみたい。どんな感想を抱くのかを。

いちばん好きなシーンはセリアズ(デビッド・ボウィ)の回想シーンだ。弟が新入生の儀式から救うことが出来ず自責の念にとらわれてしまうってところ。弟の歌(「Ride, Ride, Ride」)が映像に緊張感を与えているとは思うのだけど。なぜか印象に残るのはセリアズが壁に片足を曲げてもたれかかってるシーンだ。それほど印象的なシーンではないと思うのだけれど、ものすごく記憶に残っている。

「戦場のメリークリスマス」のテーマを聴くと、今でも高校生の頃に戻ってしまう。当時の気分になるのではない。映画館の席に座ったままの10代の自分を、現代の自分が背後から見つめているんだ。ただ、じっと見つめているだけ。

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あの、いわゆる「戦メリ」のテーマを元にした「Forbidden Colours」を同じ年(1983年)にデヴィッド・シルヴィアンと共作で出している。たしか英国のチャートで結構上の方までいったような記憶があるんだけれど。アルバム(デヴィッド・シルヴィアン名義)「Secrets of the Beehive」に収録されていた。ボーナス・トラックだ。今ならこちらのベスト盤の方が手に入れやすいかもしれない。

このふたり、他にもいろいろと共演している。「Bamboo Music」とか。後期のJAPAN時代から仲良しだもんね。2003年にはひさしぶりに「World Citizen -I won’t be disappointed-」とかでもやってる。でも、教授のアルバム(「CHASM」)では少し浮いてるような気がした。

戦メリの音。使われてるシンセはSequential Circuit 社のProphet5。使いまくってるらしい。最近ではこれのソフト版が出ている。Native Instrumental 社やArturia社など。UIがカッコイイのはu-heのRepro-1。

u-he makes creative software synthesizers and effects.

「戦場のメリークリスマス」。原作はヴァン・デル・ポストの「影の獄にて」。 内容は「影の獄にて」「影なき牢格子」「種子と蒔く者」という三部作だ。「種子と蒔く者」の原題は「The Seed and the Sower」。与える者、与えられる者……それよりずっと深い感じがする。手持ちは「戦場のメリークリスマス 影の獄にて 映画版」(新思索社)。絶版だ。