ピーター・マーフィーはベラ・ルゴシの子どもたちとしてステージで演技を続けている

1979年、バウハウス(Bauhaus)はシングル「ベラ・ルゴシの死(Bela Lugosi’s Dead)」を名刺代わりのデビュー作として発表した。ベラ・ルゴシは1930年あたりから1900年代半ばまでホラー映画で活躍した俳優だ。1994年に公開されたティム・バートン監督の伝記映画「エド・ウッド」にも純主役的な存在として出演していた。この時代のホラー映画では欠かせない俳優だった。

バウハウス(Bauhaus)はボーカル、ピーター・マーフィーの個性が際立っている。ビジュアル面や曲の雰囲気など、他のバンドにはない空間を創りあげ、時代の流れに関係なく独自の路線を貫いていた。T. Rex「テレグラム・サム」やデヴィッド・ボウイ「ジギー・スターダスト」のカバー曲は本家よりも「カッコイイんじゃないの?」と思えるぐらいだ。

バウハウスはゴシックロックの元祖&グラムロックの後継者

「ベラ・ルゴシの死(Bela Lugosi’s Dead)」は本格的なゴシックロックの始まりと言われている曲だ。同世代でいえば、初期ザ・キュアーというよりボーカルのロバート・スミス、キリング・ジョークなどが当てはまるだろうか。

サウンド面ではダニエル・アッシュのギターが輝いている。ディレイを多用した鋭角的なフレーズは最高だ。いや、最強の楽曲アプローチだった。演劇的なステージングで観客を惹き寄せるピーター・マーフィーにも負けていいない。

黒を基調とした衣装やメイクはグラムロックというよりゴシック小説……エドガー・アラン・ポーの作品群やブラム・ストーカーのドラキュラ、フランケンシュタインなどの影響を感じる。

ドラキュラ俳優と呼ばれたベラ・ルゴシ

ベラ・ルゴシはブロードウェイで舞台「ドラキュラ」で伯爵を演じ、1931年に映画化された「魔人ドラキュラ」でも舞台と同じくドラキュラ役を努めた。監督は翌年に今でもカルト作として有名な「フリークス」を撮ったトッド・ブラウニング。原作はブラム・ストーカーが書いたゴシックホラーの名著「吸血鬼ドラキュラ」だ。

現在でも残るドラキュラ伯爵のビジュアルイメージはこの映画が始まりだった。黒マントに黒いスーツは彼の当たり役となり、新しい怪奇スターとして世界に認知された。

デヴィッド・ボウイが出演していた1983年の映画「ハンガー」

1983年の映画「ハンガー」はトニー・スコット監督のデビュー作だ。まさか、この数年後にトム・クルーズ主演の「トップガン」を撮ったとは思えない退廃的な映画になっている。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、相手役はデヴィッド・ボウイ。現代のニューヨークに住む吸血鬼という設定だった。

この映画のオープニングを飾るのが、金網越しに歌うピーター・マーフィーの「ベラ・ルゴシの死(Bela Lugosi’s Dead)」だった。素晴らしい選曲。吸血鬼の映画に、この曲を使うのは反則だ。しかも、冒頭にこれを使うとは素晴らしすぎる。

ドラキュラ伯爵の姿で埋葬されたベラ・ルゴシ

「魔人ドラキュラ」で俳優としての地位を獲得したベラ・ルゴシだったが、すでに年齢は50歳手前。その後、ホラー系の映画に出演はするものの、高齢や下手な英語(ハンガリー訛り)などが原因で脇役が回ってくることが多くなっていく。

4度の離婚に薬物中毒といった典型的な落ちぶれていく映画スターだった。当然、映画界周辺のメディアの餌食になり、噂ともいえない誇張した悪しき伝説が流れる。そして、73歳、心臓発作で亡くなった。黒マントに黒いスーツの服装で埋葬されたそうだ。最後まで映画のような人生だったのかもしれない。

ピーター・マーフィーのDNAには……

バウハウスは1983年に解散した。わずか5年ほどの活動期間だった。残したスタジオアルバムは4枚。その後、ピーター・マーフィーはミック・カーンとダリズ・カーを組んでいたが、現在はソロ活動が中心だ。残りの3人はラブ・アンド・ロケッツを結成。数枚のアルバムを発表した。

1998年にバウハウスは再結成し、期間限定のライブを行った。来日もしている。2005年には再度復活し、2008年に新譜を発売するが、そこには、かつてのバウハウスの姿はなかった。バウハウスそのものを終わらせるために、あえて、バウハウス名義のアルバムを出したように感じる。過去の残像に嫌気がさしていたのだろうか……自分たちの手で自らのバンドを殺した。

ソロでのピーター・マーフィーは相変わらずの雰囲気を醸し出している。年齢を重ねたもののデビュー曲を発表した頃からの目は死んでいない。怪奇俳優が憑依したかのようなオーラは健在だ。彼は死ぬまでピーター・マーフィーというミュージシャンを演じていくのだろう。もしかすると、永遠の命を持った身体なのかもしれない。殺しても死なない……そう、きっと、若い美女の生き血を吸うヴァンパイアのようなDNAをベラ・ルゴシから引き継いでいるのだ。